朱の訪問者
GWもあと明日1日を残すという頃。 今日は弓道部の練習もなく、佑介もゆっくりと過ごそうと思っていた。 ところが、思わぬ「お客」の相手をするはめに…。 「……で? 杏珠ちゃんをほっぽって、なんでここにいるんだよ、朱夏;」 ―――いいじゃない、暇なんだもの♪ 朱夏…佑介が呪力で呼び出し、杏珠に守護神として与えた朱雀の化身。普段はカナリア似の赤い小鳥の姿をしている。彼女の名「朱夏」は、杏珠がつけたものだ。 今、朱夏は佑介の肩に乗っている。 「暇って……;; おまえな、杏珠ちゃんの守護神だろ。ちゃんとそばにいなきゃダメじゃないか」 溜め息を吐きつつ、あきれ顔で佑介が言う。彼の膝の上にいる白猫=白虎の化身であるハクも、苦笑混じりに二人のやりとりを聞いていた。 ―――ご心配なく。あそこは本当に平和そのものよ。守護神というより「友達」みたいなものだわ。…それに、あたしを表に呼び出してくれたのは佑介なんだし(^^) 「だからってなあ〜〜…」 ―――……あのねえ。言っとくけど、杏珠のことは本当にとっても大事よ。でもね、あたしは佑介のこともすごく心配なの! 「……!?」 朱夏の思わぬ言葉に驚く佑介。朱夏は佑介の肩から降りて、彼の前に立ってキッと佑介の顔を見た。 ―――最近、あんなとんでもないヤツに命を狙われてるでしょ! しかも一度死にかけてるし! 羽をばたばたとさせてまくし立てる。 朱夏が言う「あんなとんでもないヤツ」とは、佑介の呪力をものにしようとつけ狙う、蘆屋道満のことである。 実際、佑介は何度も道満の霊と対峙していた。確かに夢の中にまで入り込まれ、命を落としかけたことがある。 「……なんで朱夏が、そのこと知ってるんだ?」 ―――ハクが教えてくれたわ。半分は「白状」させたの 最初は「白虎」とハクのことを呼んでいたが、いつしか名前で呼ぶようになった。ハクも朱夏のことは名前で呼んでいる。 「……ハク〜〜…?」 佑介がジト目で膝の上のハクを睨む。 「…申し訳ありません; ですが、朱夏の気持ちも考えると…」 朱夏にとって佑介は自分を呼び出し、杏珠という、優しく安らかな「居場所」を与えてくれた者だ。その彼を心配するのは当たり前のこと。ハクにもその気持ちはよくわかる。 「……ったく。しょうがないな」 苦笑しながら、佑介は再び溜め息を吐いた。 「大丈夫だよ、朱夏。俺だって伊達にあいつとやりあってないさ」 ―――でも… 「ホントに大丈夫だって。ハクもいてくれるし」 「佑介さまのことは私が護っているから、安心して杏珠どのの所に戻れ。朱夏」 ハクも安心させるように笑って言う。 ―――白猫の姿で言われても、説得力ないんだけどな 「…ぷふっ(^^;)」 思わず、佑介が吹き出してしまう。 「あは…はははっ; 確かにそれ言えてるかも(^^;)」 「佑介さま; そんなに笑うことはないでしょう;;」 「…っ、ごめんごめん(笑)。頼りにしてますよ、白虎どの(^^)」 「……本気で言ってるよーに思えませんが?(−−;)」 そんな佑介とハクのやりとりを見ていて少しホッとしたのか、朱夏は。 ―――その様子なら大丈夫そうね。…でも佑介。あたし、時々はこっちにも来るから。何かあったら絶対知らせてよ? 「…なるべく、そうならないようにしたいけどね。本当に危ないときは…その時は頼む」 ―――頼む。 ハクも朱夏も、佑介のその言葉に目を見張った。今まで、誰かに頼るということをしなかった佑介。その彼が初めて「頼む」と言ったのだ。 ―――当然でしょ! すぐに飛んでくるから♪ 朱夏は嬉しそうに、再び佑介の肩に飛んできた。 「ああ…サンキュ」 佑介もくすぐったそうに目を細めて笑う。 ―――さーて、珍しいものも見せてもらったし、あたし帰るわね(^o^) 人間で言うなら「にこにこ」という表現がピッタリであろう仕種で、朱夏は佑介の部屋の窓際に一度止まった。 「珍しいもの? なんだそりゃ」 ―――おっしえなーい♪ 「あっこら、朱夏!」 悪戯っ子のように笑みを含んだ声で言うと、朱夏は窓から飛び立っていった。 ******************************************** はるうさぎさんのサイトはこちらです 「星宿海 渡時船」 |