星の末裔(すえ)ー邂逅ー



(やはり、ここはいいな)
5月の連休を利用して久しぶりに佑介は京都へとやってきた。
先祖の血が呼び寄せるのかどうかはわからないが、ここ――京へ来るとどこか地に付いた感じがするのは気のせいではない。
(ばあちゃんの実家がある福井じゃなくて、ここなんだよなあ)
それは、晴明が一生の間心血をそそいでこの地を守っていたからかもしれなかった。
今回のこの1泊2日の京都旅行は、幼馴染である栞も一緒に来たがっていた。
(あいつは無防備すぎる・・・・)
「橋姫事件」の時、全ての準備を整えて栞は、京へと旅立つ佑介の前にあらわれた。
危険な事もあるからと言ったのだが、可憐な外見からは想像できないほど頑固な面も持ち合わせており、結局のところ、佑介は折れざるをえなかった。
だが、いつもいつもそういうわけにはいかない。
(・・・・・俺だって、「男」なんだ)
栞を「おさななじみ」ではなくひとりの「女の子」として意識しているのだ。
だから自分の忍耐力を試すようなことはしたくなかった。
(だいたい、あのあと真穂先生からいろいろ言われて大変だったんだ)
栞自身は、この頃はまだ佑介に対して「おさななじみ」としてしか認識していなかったので、母親の真穂にさらっと「佑くんと一緒に京都行ってきたよ」なんて言ってしまっていた。
だが、大事な娘が幼馴染とはいえ男の子と一緒に2泊3日の旅行に出かけてきたら、心配しない親は普通はいないだろう。
しかし真穂は。
「あら、なんにもなかったの? だめねえ」
と言い、からからと笑った。さらには。
「あの娘(こ)、奥手っぽいから、少しくらい強引にせめないと気がつかないわよ」
とまでいってのけた。
・・・・それが娘を持つ母親の言う台詞かといいたかった。
とりあえず今回はそういうことのないように、ひとりでやってきたのだった。


京都駅からバスに乗り、20分ほどで目的の晴明神社へ行くのに一番近いバス停“一条戻り橋”に到着する。
晴明神社まではここから歩いて五分とかからない。
堀川通りを今出川通りに向かってしばらく歩くと一の鳥居が見えてくる。その鳥居をくぐり、掘川通りからもう一本奥に入った細い通りを渡った先に晴明神社はある。
通りを渡り、二の鳥居へむかうと、その鳥居のもとに人が立っていた。
近づいて行くとその立っている人は、着物を着た年のころ12〜3歳の美しい少女であった。
髪は長く真っ直ぐであったが、その色は白髪・・・というより銀髪のように見えた。
少しうつむき加減で立っていたその少女は佑介に気がついたらしく、佑介に向かってにこりと笑いかけ会釈した。
つられてこちらも会釈する。
佑介が顔を上げた時にぶつかった少女の瞳は、濃い赤・・・蘇芳ともいうべき色をしていた。
(アルビノ・・・・? それにしても・・・)
なんとも不思議な雰囲気をまとった少女だった。
誰かを待っているんだろうか・・・・そんなことを思いつつ佑介は境内へ足を踏み入れた。


手水舎で清めをすませ、真っ直ぐ本殿へとむかう。
本殿には先客がいた。長い黒髪を持つ女性である。なにやら熱心に祈りを捧げているようだ。
邪魔にならないようそっと横に並ぶと、自分に気がついたのか、その女性は軽く会釈してその場から去っていった。
長い黒髪をふわりとなびかせて。


参拝を済ませ、何回か訪れるうちに顔見知りとなった宮司に挨拶をしてから神社をあとにした。
ふたたび掘川通りに戻り、戻り橋へとむかう。ここも京都へ来れば必ず行くところだ。
二度目に京都へ訪れた際、この橋から平安時代の晴明の元へタイムスリップしたことがある。
(本物の晴明公にお目にかかれるとは思わなかったな)
思い出してくすくすと笑う。
『なにを笑っておるのだ』
今は佑介を守るためそばについている、晴明の神霊が尋ねる。
「・・・・晴明公に会えた時のことを思い出して・・・・ね」
さほど歩くこともなく、戻り橋にたどり着いた。橋のたもとにさきほど晴明神社で見かけた美少女が立っていた。
見れば見るほど不思議な少女だった。姿は確かに少女なのに、もっと年上に見えるのだ。
少女が佑介に気がついた。すると。
「安倍博士(あべのはかせ)、お久しゅう」
と話しかけてくるではないか。
晴明の姿は彼が意識しない限り、佑介以外の人には見えない筈である。
その晴明を見ることが出来る、この少女は一体・・・・?
しかも晴明を「安倍博士(あべのはかせ)」と呼びかけた。
驚きつつ、佑介がそう思っていると、晴明は姿をあらわし、ふっと微笑しその少女にむかって頭をさげた。
『このような姿でふたたびお会いすることになろうとは・・・・』
晴明にはこの少女が何者であるのか、すぐにわかったようだ。
「そこな若者は何者でありましょうや? そなたほどの者が守っているとは」
(若者?!)
自分より何歳も年下の少女に若者扱いされ、驚きのかくせない佑介である。
そんな佑介の様子に晴明は苦笑しつつ。
『私の子孫にあたる、土御門佑介という者です』
と答えた。
「ああ、さようか。利発そうじゃの」
(利発そう? ・・・ちょっと待て〜)
ふたりのやりとりにわけがわからない佑介。
「あの、晴明公、この子は一体・・・・・?」
思い切ってたずねてみた。
晴明はああ、とうなづき、こう答えた。
『佑介。こちらのかたは今は少女の姿をされておられるが、魂は私と同じ世を生きていた宮さまなのだ』
「え?!」
「賀茂の斎院をつとめていたがの。今は一条薫子という。よろしうにな」
とにっこりと笑う薫子。佑介にはわけがわからない。
一緒に京へ来ることを断ったくせに、こんな時栞がいてくれたらとつい思ってしまう佑介であった。
栞は歴史研究部所属なだけあって、いろいろとくわしいのだ。
少々パニックを起こしかけている佑介を尻目に、晴明と宮さまの魂を持った薫子はなごやかに歓談なぞしていた。
「姫さま!」
「・・・ゆきか」
声の方に振り返ると、先ほど晴明神社の本殿前で見かけた、漆黒の長い髪を持つ凛とした娘がいた。
「ゆきか、じゃございません。お探ししましたよ。このようなところにおひとりで・・・・え。・・・・安倍の・・・晴明?」
ゆきと呼ばれたその娘は、薫子のもとへ駆け寄ってきたかと思うと、薫子の真正面(佑介が立っているのだが)を見つめ、目を見張った。
「そうじゃ。嘘いつわりない、安倍博士じゃ」
「・・・・本物か偽者か、姫さまに言われなくともわかります」
きっと薫子をにらみつけ、すぐさま視線を晴明に戻した。
「貴方様が亡くなられてからのち、ふたつにわかれたうちのひとつ倉橋家の血筋を引く者です。桜狩ゆきと申します」
「えっ・・・・? と、いうことは・・・・」
「ゆき。そこな若者もそなたと同じ血を引く者じゃ」
そこではじめてゆきは佑介に気がついたようだ。目の前に立っていたのに、佑介の後ろにいる晴明しか目に入っていなかったらしい。
「あ、土御門佑介といいます。先ほど晴明神社で会いましたよね」
呆然とやり取りをみていた佑介があわてて名乗った。
「ええ。・・・私は桜狩ゆき。こちらは一条薫子さま。私のお仕えする姫君です」
表情を全く変えず、自分と“姫さま”と呼んでいる薫子を紹介した。
「姫さま、おひとりでふらふらお歩きになられては困ります。迎えをよこそうと連絡しているすきに・・・・!」
「おや。戻り橋に行ってくると言うていったぞ」
しれっと答える薫子。ゆきは思わずこめかみを手でおさえた。
「電話していたら聞こえませんよ。じゃなくても車の往来があるのに」
「別に良いではないか。大事無かったし、おかげで本物の安倍博士にお会いできたというもの。同じ血筋の者にもめぐり会うたではないか」
またにっこりと佑介に笑いかける。ゆきはうろんそうに。
「土御門、というだけで、そうとは限りません」
―――えっ?!
(晴明公の姿が見えているのに。・・・そりゃ俺だってまだ信じがたい思いはあるけどさ)
ゆきの物言いに佑介は釈然としない。
「それより姫さま、迎えももうそこに来てます。行きましょう。みなさまお待ちですよ」
「勝手に待たせておけばよいのじゃ。いつもいつも無理ばかりいいよる」
「そのようなわけには参りません。さあ」
晴明のことは意識しつつ、が佑介のことはなかば無視するようなかたちで、ゆきは薫子をうながした。
「いづこかでまた、出会うこともあろうかの」
ゆきの強情さにあきれ、しぶしぶながら歩き始める薫子。
『息災で・・・・、姫宮』
「そなたがそばで守るほど気に入っておるとは、よほどの若者なのであろうな」
そのことばにただ微笑む晴明。
「姫さま、おはやく」
そんなふたりのやりとりをじっと見ていたゆきはさらに薫子をせかす。
「なに、ゆきは単にやきもちを焼いておるだけじゃ。気にすることはないぞ、佑介とやら」
「いえ、そんな」
「姫さま!」
急に自分に話をふられ、戸惑う佑介。対照的に薫子の手を引くゆきの顔はほんのり赤かった。
「では、の」
あくまでも薫子は優雅に自分のペースを乱さずに去って行ったのだった。


つい、いましがた目の前で起きたことは、一体なんだったのだろう。
晴明と同じ時代を生きた魂を持つという少女に会った。
銀髪の長い髪、蘇芳色した瞳を持つ、不可思議な雰囲気をまとった少女。
その少女を『姫さま』と呼ぶ、もうひとりの漆黒の髪を持つ凛とした女性。
彼女は土御門家から分家した“倉橋家”の者だと言った。
(・・・俺のことすっかり無視してくれて。晴明公が俺のそばにいるのが気に入らなかったのかな)
『佑介・・・・?』
考え込んでしまった佑介に晴明はそっと声をかけた。
「ん、なんでもないよ。栞から晴明公の血筋は後々ふたつに分かれた、っていうのは聞いていたんだけどね」
まさかその血筋を引く当人に遭遇するとは思いもよらなかったのだ。しかも晴明に縁の場所で。
(できすぎだ)
そんな風にも思ったりするが、きっとなにかが呼び合ったのだろう。
またいつか会うことがあるのだろうか。
それは運命の星のみが知っているのかもしれなかった。


***********************************

葉桐瑞穂さんが書いて下さった、うちの「星紋」キャラと瑞穂さんちのキャラのコラボSSです。
元々はシリアスバージョンで、かなり長いストーリーでのコラボを予定していたのですが、ちょっと事情がありまして中止になってしまいました。そのお詫びに…と、わざわざ書いて下ったのがこれです。
瑞穂さんちの主役・桜狩ゆきちゃんと、うちの主役・佑介の「ファースト・コンタクト」。初めはお互い、いい印象じゃなかったのね〜(笑)。本来書くはずだったストーリーは、この出会いからしばらくたった時期でのものだったそうです。…瑞穂さん、本当にありがとうございます。
今回、初めて壁紙を作ってみました。星をモチーフにしたものって意外に少なくて。ちょっとうるさすぎかなあと思いましたが、そこはお見逃しを(笑)。


戻る